彼のおじいさんの名にかけて

駅のホームを歩いて、周りの町並みを見るのが好きです。
あちらがわもそれを承知と見て、こちらに向けてステキな看板で宣伝をジャンジャンしてくるのよ。

今日、駅のホームを歩きながらいつもの如くキョロキョロと駅周辺の風景を見ているときに、こちらに面した窓を互い違いに少しずつ開けているビルのフロアから大声で気合を入れる様子が漏れて聞こえてきたんです。
その少し開いた窓ひとつひとつにテープか何かで文字が記されていたので、そこがボクシングジムだということがすぐにわかりました。

「なるほど。内藤選手や亀田兄弟のおかげで、ボクシング人気が出てきたのかしら?」

なんて思って目をそらした瞬間、残像の中に「アレ?」っていう違和感が。
その違和感が何か確かめようと、立ち止まって、もう一度そのボクシングジムの窓に目を戻しました。
窓には『ボ』『ク』『シ』『ン』『グ』って書いてあり、一番右の窓には、一面を使って『女子プロ大募集』と書いてあることを確認。

「ダイエットやエクササイズにボクシングを利用する女子もいるんだな。そういえば『ボクササイズ』なる言葉もあったっけ。」
と思って見過ごすところでしたが、ちょうどホームのアナウンスが電車の到着を告げたとき、ハッと我に返りました。
「いやいや。ボクササイズをする女子はプロとは言わないだろ。」
「じゃあ、本格的にプロを目指す女子を募集ってことか?」
「いや、プロを目指している時点でプロじゃないから、そういった女子を募集しているわけではない。プロを募集しているんだ。」
金田一並みに、思考があふれ、回りだし、すべてを一本につなげていく。
「じゃあ、本当に女子プロを募集しているのか?」

そうなると。
すでにプロであるということは、どこかのジムに所属しているはずだ。
そんな女子を堂々と窓に貼ったテープみたいなやつで勧誘をしているというのか。
向こうの方から電車が近づいてきて、減速しながらホームに滑り込んでくる。
視界を電車がさえぎるその瞬間に、そのジムに俺なりの結論を下した。

「そりゃいかんよ。」

電車のドアが開き、比較的空いている車内の椅子に座ったとき、もうその事件のことは俺の脳裏から跡形もなく消えていた。
で、今思い出したから、書いた。