3秒

駅の前でチラシを配っているお姉さんが前を歩くサラリーマンに笑顔でチラシを差し出した。
サラリーマンは、そのチラシに一瞥をくれて数秒前と同じスタンスで歩き続けたんす。
そんなことは慣れっこのチラシ配りのお姉さんは、気を取り直して次のターゲットに目を向ける。俺だ。
だが、その瞳に躊躇いの色を濃くしている彼女の笑顔が少し曇るのを、刹那、見た。
どんな内容のチラシかは知らないが、彼女のテリトリーにとっくに足を踏み入れている俺という獲物がいるのにもかかわらず、その触手を動かそうとしない彼女。
先のサラリーマンに笑顔で差し出したそれを、俺には差し出すか否か。
氷のような笑顔の彼女の前から、あと一歩、背中を見せようとしたときに、何かを言って例のモノを差し出した。
もう遅いぜ。
俺は君から離れようとしているんだぜ。
未練なんか残したくないから、だから俺はそれを受け取らなかったんだよ。
どうせ君は、いろんな男に同じようなことをしてるんだろ?
あばよ!
っつって地下鉄に乗った。