いまおもうこと

言いたいことなんて本当にあるんだろうか
君は愛を歌い あなたは世界を歌う
それならそれならば
今この歌を歌う僕は
空っぽの歌に何を乗せよう何を乗せよう
タバコの煙の向こうには曇り空
時折通り過ぎる乱暴な車
年老いた顔をして
風の尾っぽを首に巻いた猫が
目を細めて喉を鳴らす喉を鳴らす
靴の中敷は地球のすべて
吐く息の温度は空のすべて
地球と空をむすぶ
背骨はまるでホチキス
赤茶色の錆がざらついているざらついている
言いたいことは言わなくていいこと
言葉にすると輪郭がぼやける
心臓がこだまする落書きの中のメロディ
この衝動はどうやって伝えよう
行きたい場所なんて本当にあるんだろうか
君は道路を走り あなたは海を渡る
それならそれならば
今このステージに立つ僕は
真っ白いノートに何を描こう何を描こう
この坂道は途切れてしまったので
上る人と下る人がぶつかってしまう
しゃがんだ傍観者の
あの初老の男はかつて
月の裏を見てきたという見てきたという
行きたい場所は行かなくていい場所
旅が終われば色彩が薄れる
毛穴に滑り込む地平線の向こうのストーリー
この瞬間をどうやって伝えよう
聴きたい歌なんて本当にあるんだろうか
君は五線を遊び あなたは螺旋に揺れる
それならそれならば
今奇形の心をさらす僕は
透明な皮膚で何を隠そう何を隠そう
聴きたい歌は聴かなくていい歌
何度も聴けば情熱が剥がれる
絵の具を散らかした最後に見る空はパレット
その景色をどうやって伝えよう
その景色をどうやって伝えよう