マラソン大会
これくらい食べれられるだろうと思った大根一本は、いかに消化を助けてくれるとしても苦しい。
オリンピックのマラソン男子を見て思い出の引き出しがひとつ開く。
小学4年生くらい。
マラソン大会。
新潟の小さい町の小学校でのマラソン大会は、トラックを一周して山道を走り、折り返してトラックを一周してゴールというコース。
途中に10メートルはあるように思える、ライオンの頭の形に良く似た岩がある。
運動が苦手な俺は、足の速いそうじ君という友達についていこうとたくらむ。
そうじ君はその作戦を快く引き受けてくれて、ブロックサインも一緒に考えてくれた。
唾を路肩に吐く→少しスピードを落とそう。
手を一回叩く→スパートをかける。
簡単ではあるが、これだけでもかなり心強い。
そうじ君の数メートル後ろをキープし、ブロックサインどおりにゲームを運べば、間違いなくトップクラスでゴールできるはずだ。
同じ学年の男子が1組から順番にスタート付近に集められ、スタートの合図を待つ。
1組のそうじ君と3組の俺。
3組というアドバンテージもありスタート位置が少し後ろになっているが、そうじ君のいる位置を確認し、スタート直後に後ろにつければ問題ない。
「パン」
という勢いのあるピストルの音で、数十人の少年が動き出した。
2組の誰かがつんのめって、そのうしろからどんどんと団子のように覆いかぶさる。
例にもれず、俺もその上に乗るようにしてつんのめり、団子から転げ落ちた。
転がるときに見えたそうじ君はトラックを半周も先に進み、
「ああ、きっと唾も吐かないし手も叩かないだろう。」
という考えが、ジャリっとした砂の音と重なった。
悔しいという感情よりも、やけに納得した思いでライオンの頭を通過し、折り返してきたそうじ君とすれ違うときに、そうじ君がごめんというジェスチャーをしてくれたのが、印象的だった。
行け!行け!!
俺にかまうな!!!
飛べ!!
もっと高く!!!