楽しい夜、悲しい朝

いやはや!

浅草のフリーライブに足を運んでくれたみなさま。
すげえありがとうございました。
おもろかった。
とにかくすごく気持ちいいのね。
俺の出演した時間はステージが炎天下で、次のヒロキさんから徐々に日陰に飲み込まれていってさ。
真夏のフェス感を感じることができたのは、きっと俺だけじゃないかな?
つうか、暑かった。
メリットありデメリットありの二面性を持ち合わせたトップスウィングは、スカイツリーの麓で渦になるわけですよ。
一緒に出演した福ちゃんこと福田詩朗は、心のベストテンに赤丸急上昇で、ダンスフロアーには鮮やかな光が舞うわけ。
がさつな男のアイラブユーなのよ。
夏に向けて福ちゃんとは何度も一緒に歌うので、彼はぜひとも聴くべしっすよ。
そしてイベントに誘ってくれたハッサンことハンニバルはしぐち(はしぐちかずひろ)は、めがねかけてた。
めがね男子とかいう特集をホットドックプレスとかでやってた影響かも知れんな。
ハッサンはギターが本当に好きなんだろう。
すごくそれがヤマハに伝わっていて、すごくいいなあ。
忙しいハッサンとも夏に一緒になんかやろうぜって言って別れたから、夏に一緒になんかやるぜ?
よろしくな?
イベントは夕方に終わったので、みんなでお寿司を食べて、そのあと福ちゃんと飲んだ。
あの目がもう、すごくいい。
たまらなく人間で、たまらなく男。
そんな福ちゃんといろんな話をしたなあ。
歌というものを本当に大切にしている。それは俺もすごく同感。
トイレに立ったとき、終電時間があと6分しかないことに気付き、慌てて福ちゃんを置いて帰る。
駅まで走り、切符を買う指はプルプル落ち着きがなく、電車の発車のベルを聞きながら階段を一段抜かしで降りた。
目の前でドアが閉まり、電車の中の人と目が合う。
電車は無慈悲に走り出して、車掌室のドアが目の前で勢いよく閉まり、電車の後姿を見送った。
すぐに来た次の電車で、行けるところまで行こうと乗り込み、ダイヤの乱れで最終電車が止まっていればなんとか、とか思っていた。
のろのろと走っては止まる地下鉄にたくさんの人が乗り込んでくる。
「最終が近いのにたくさんの人が乗るんだなあ。」
と関心していたときに目に入った駅構内のデジタル時計。
12時前だと思っていたら、11時前でした。
あと一時間飲めたのに、ダッシュで帰った俺。
福ちゃんも、そういえば不思議そうなまなざしで俺を見送っていたっけ。
という一日のエンディング。
さかのぼること、13時間前。
隣の家に5歳の男の子がいる。
俺のことを気に入ってくれているのか、彼は休みの日になると俺の家の呼び鈴を鳴らす。
鳴らすやいなや鍵のかかっていないドアは開かれて、彼は家の中を見るのよ。
1ヶ月前に引っ越して来てから、週末になるとこんなことが繰り返されていたんす。
公園に行ったりクイズをしたりして、最初はものめずらしく楽しかったなあ。
ハッサンとの待ち合わせの時間は12時半。
朝早く起きていろいろと準備をしなければならない。
昨日の夜に済ませておけばいいことを、先延ばしにして、朝になって慌てるのは小学校のころから進歩がない。
CDを焼いたり、チラシを作ったり。
持っていくものも用意しなければならない。
単調作業とチェック作業を繰り返しているときに、呼び鈴が鳴った。
そのころの少年特有の自慢げな目でドアの隙間から顔を出している。
田舎に家族で行っていたという彼とは、2週間ぶりぐらいに会う。
彼の近況報告を聞いて、算数のクイズを出していると、彼のお母さんが買い物から帰ってくるのが見えた。
ちょうどブランチの時間で、ご飯を食べるから帰ってきなさいと言われ、彼とは別れた。
約束の時間に間に合うように家を出るなら、あと30分くらいしか余裕がない。
慌てて作業に戻って、淡々と進めていく。
それから5分くらいしか経っていないが、呼び鈴がまた鳴った。
顔を出すと、彼だ。
ご飯を食べなさいとお母さんに言われて、5分。
食べてから出てくるには早すぎだ。
それにこれ以上時間をロスすると、待ち合わせに間に合わなくなってしまう。
そんな苛立ちもあって
「食べてないだろ。」
と俺は、冷たく言い寄る。
彼は当然のように笑って
「嫌いなものばっかだったから食べてない。」
と言う。
そんなあからさまな言い訳に
「好き嫌いをしちゃだめだろ。嫌いなものを食べてからじゃないと遊ばないぞ。」
強めの口調だったと思う。
びっくりしたのか、彼は家に帰っていく。
帰っていく後姿を見送っていると、彼は振り返り
「おなかいっぱいになっちゃってるんだよ。」
と言うが、それも嘘だろうと思い、食べて来いというジェスチャーをした。
残りの作業を片付けたときは、すでに予定の時間を5分ほどオーバーしていた。
ギターを背負って、駅に急ぐ。
嫌いなものを食べてきた少年が呼び鈴を押すかもしれないということは、一切考えなかった。
そして帰ってきたのは深夜0時を過ぎ。
酔っ払ってご機嫌になった俺は、そのまま布団に入る。
炎天下のライブの疲れもあったのだろう、目を覚まして時計を見ると昼の12時を過ぎていた。
よくもまあ、こんなにも眠れるもんだと関心する。
雨が降っていないので、つっかけをはいてパジャマのまま玄関を出た。
隣の家の引っ越してきたときからあるスケボーが置いてあった場所に、ダンボールが数枚、束になって立てかけてあった。
そして、すりガラスになっている窓の向こうにはカーテンが外されていた。

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あれれ?と思い、俺は、初めて彼の家の呼び鈴を押した。
誰も出てこない。
彼みたいに玄関から顔をだしてみようとノブを回したが、ドアは開かなかった。
彼は、また、引っ越してしまった。
おいおい、あんなエンディングかよ。って自分を責めちゃうだろ。
勘弁してよ。
もしかして、何かを取りに、誰かが戻ってくるかもしれない。
そのときになにか彼に渡してもらうことにしようって、俺の好きな絵本を玄関に準備し、今日はずっと窓際の部屋にいた。
来たのは、ダンボールを取りにきた引越し業者の人だけでした。

隣の家に5歳の男の子がいた。
絵本は、本棚に戻した。