50%のフィクション
俺のアイポッド(ipod)が交通事故にあい、瀕死状態になりました。
腰に付けていた皮のポシェットみたいなやつが、駅に着くと付いていないことが発覚!!
あわてて今来た道を、あたりをキョロキョロと見回しながら歩きいて戻ったのだが。
心当たりは、あった。
信号のない横断歩道で、スキップするように早足で渡ったことが脳裏から離れない。
それでももしかしたらという思いで、辺りを見渡しながら歩いているさまは、まるで中西さんのようだった。(誰だよ。)
そんなことはいい。
その心当たりのある道路に着いて「どこら辺で渡ったっけ?」なんてのんきなことを考えながら、車が来ないことを確認して横断しました。
いや、それは、横断している途中だった。
20メートル先。
車道の歩道よりのところに、何かが落ちているじゃないですか。
まさか、と思って駆け寄ろうとしたとき。
「あ!」
白い乗用車がその影を踏み、その影は少しバウンドしたように思われた。
車が向こうから、こっちからお構いなしに来るが、こちらもお構いなしにその影の方にズンズン進む。
その影との距離が5メートル程になったとき、
「やっぱり俺のポシェット、あ!!」
もう一台の車が俺のポシェットを踏みつけ、通り過ぎて行った。
現代の社会は、ボニーアンドクライドのラストシーンのように容赦はしない。
もうすでに何台もの車に踏みつけられてグロッキーになったポシェットを、車はさらに踏みつけていくのだ。
ちょうど車の轍のところに落としていくという不運を呪った。
一台の車が通り過ぎて行ったとき、なりふりかまわず俺はポシェットを抱きかかえた。
「すまなかった。すまなかった。」
なんども頭の中でポシェットに対して繰り返し、ちょっと早足で歩いて疲れたので
「道の端っこにある灰皿で一服でもしようかしら?」
と、お得意の切り替えの速さを披露。
ポシェットの中にあるタバコを取ろうと手探りでボタンを開けようとしたとき、ことの重大さを知った。
ボタンがフニャフニャにつぶされているのだ。
俺はあわててボタンを開け、中からタバコを取り出した。
タバコもぺちゃんこにつぶれていて、試しに火をつけても全然おいしくいただけない。
落胆した表情を隠しきれず、
「ほかはどうかな?」
と、中にあるアイポッドをおもむろ取り出した。
一瞬、ハッと熱いものがこみ上げたが、それはあきらめに変わった。
見てのとおり、液晶はグチャグチャ、本体はフニャフニャ、イヤホンはボロボロの状態で俺の目の前に姿を現したのだ。
「痛いよ。兄さん、なんとかしてよ」
と、問いかけるようなそんな外観に
「ああ。がちょーんだ。本当にがちょーんだよ。」
谷啓さんはこのときを見越して、この言葉を残してくれたのだと勝手に解釈をした。(なんでだろ?)
「ごめんね。今までありがとう。」
と思いながら、瀕死の状態のアイポッドを、いつものように耳にあて、ボタンを押した。
これが今の俺にできる、最高の愛情表現だと思ったからだ。
ならなくてもいい。
ただ、こうしてあげたいと思った。
そのまま前を向いて駅に向かおうとしたとき。
「どんなときも~どんなときも~」
槇原がイヤホンから流れてきた。
こんな状態になりながらも、俺のアイポッドは俺を励まそうとしてくれている。
「もう無理しなくていい。もういいんだよ。」
と思いながらも俺は、周りの人に聞こえないくらいの大きさで
「僕が僕らしくある~ために~」
と歌った。
振り返ると、夕陽が僕らを包んでいた。