2月の物語

両手で顔を隠しながら歩く女の子は
指の隙間から見える空が宝物

空を横切る茶色い羽は手品師の卵
ポケットの中からビー玉が五つこぼれ落ちた

ジュースを飲んでアスファルトに唾を吐いた男の子が
すれ違ったのは名前のない午後のこと

赤道から伸びた青い点線が終わる交差点に
光を食べたビー玉がふたつ転がった

横断歩道 白と青は別々に話している
「なにもないの?」「なにもないよ。」

上空100メートルからはふたつがひとつに見える
上空100メートルからはふたつがひとつに見える

地下鉄のB4階段 人ごみ 息を切らす男
四角い額縁の中の空に立ち止まる

遠近感を失くして地上に降りたガラス拭きは
雲に届いた風船に息を吹きかけた

ビニール袋に時間を詰めてお金に変える女
名前を付けるには容易い時間に目が合った

積み木のビル 解けない氷の窓 銀の鏡
空のレプリカがビー玉をふたつ映し出す

かかとの音が途切れるときにコソコソと声がする
「どこに行くの?」「帰るとこだよ。」

上空100メートルからはふたつはふたつに見える
上空100メートルからはふたつはふたつに見える

何度かすれ違い 何度か目が合い 同じ空を見ていた
彼と彼女の別々の時間が交差する

地球の自転に祝福された国道沿いのふたり
膨れた空に茶色い羽が突き刺さる

ビー玉がひとつ 水溜りの中で濡れていた

上空100メートルからはひとつがふたつに見える
上空100メートルからはひとつがふたつに見える