肉眼
写真が好きじゃないと椎名林檎さんさんはうたっていますが、実は俺もあまり好きじゃありません。
カメラを向けられると、顔を隠したり、その場から姿を消したりする方もいますが、そこまで徹底はしてないですが。
なぜ好きじゃないかというと。
魂を云々されるとかというわけじゃないです。
高校生のときに付き合っていた彼女と、横浜のマリンタワーに行ったんす。高校のとき。
ホイチョイプロの波の数だけホニャララとかいう映画を観て、ゲーセンとか行って、マリンタワーです。
夏休み最後の日に初めてデートを誘って、その日、俺はもうなにがなんやらで、彼女はというと、先日まではロングヘアーだったのにデートの前日に坊主にしたとのことで坊主だし。
めちゃくちゃてんぱってました。
夏の夜だから20時くらいだったと思う。
横浜に来たからにはマリンタワーつって。
地下鉄もまだないし、バスで行ったかな。
スカイツリーとか東京タワーほど迫力の高さじゃないけど、塔は人をときめかせるのかもしれないよね。
展望台からは夜の海、そして横浜の街を走る車のライトの光。
ものすごくきらびやかで、ジグソーパズルの絵のようで、俺は『写るんです』のフィルムをカチカチ巻いて、この瞬間を捕らえようとしたんです。
そしたら彼女。
「写真に撮っても、全然きれいじゃないよ。今見てるのがきれいだよ。」
って。
たどたどしく、的確に、美しさを説明してくれた。
俺はこの言葉を尊重する。
ブルーハーツもメジャーに殴りこみをしたときに
『写真には写らない美しさがあるから』
と高揚している。
だから見えるうちは目でみようと。
写真は琵琶法師にまかせて、俺はなるだけ肉眼を大切にしようと思ったんよ。
写真ももちろん好きだけど、それは記録だしね。
記録と現実とじゃ、少し間があいているようなきがするよね。